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007の世界とわれわれの世界が接近遭遇のち衝突の末秘密兵器を壊されたQが激怒 [ニュース]

Blackphoneの出荷が数日前から始まった。
Mobile World Congressで発表されて注目を集めたこの商品のウリはカメラの画素でも画面サイズでもデザインでもない。
独自のOSとアプリによるプライバシー保護機能こそが注目の的となった。

Androidをベースにプライバシー保護のための技術を強化した「PrivatOS」を搭載。
内蔵された専用アプリは通話やテキストメッセージを暗号化し、他者からの傍受や監視を防ぐ。
他にもWiFiホットスポットに接続した際に無線通信履歴を残さないアプリや、IPアドレス等の個人情報を隠して匿名でのモバイルブラウジングができるアプリがあり、あらゆる局面においてユーザーを「隠す」機能が充実している。

盗聴防止機能や暗号通信機能付きの通信器機とは三昔前のスパイ映画に出てくる秘密兵器を思わせる。
そんな摩訶不思議な秘密兵器が出てくるスパイ映画の代表と言えば007シリーズの名が挙がることだろう。

じっさいこのニュースを聞いて、直近の作品『007 スカイフォール』を思い出した。
同時に、フィクショナルな古典的スパイとわれわれとの奇妙な立場の入れ替わりを見た。

この作品のボンドは驚くほど泥臭い。老いて、傷つき、泥と錆にまみれている。
汚れてくすんだ顔に確たる矜恃を秘めたその姿には、ピアース・ブロスナン以前のボンドにあった作り物のようなスマートさはない。確かに優雅で洗練されているが、そこには血肉と人間臭さという、よい雑味がプラスされている。

この作品にいわゆる「秘密兵器」は登場しない。過去の作品であれば、風変わりで年老いた科学者の“Q”が驚くようなギミックを搭載した新兵器を嬉々として披露していたが、この作品に登場する“Q”は無愛想な若者で、ボンドに手渡した「秘密兵器」は生体認証付きのピストル一丁と無線式探知機だけ。

むしろスパイらしいのは敵方のラウル・シルヴァである。

サイバー犯罪集団の元締めである彼はコンピュータとネットワークを駆使してボンドらを翻弄し、一度は捕まるもMI6本部から脱走を果たす。
その後彼は後地下鉄の人混みに紛れて追跡をかわす。

“国”や“組織”という枠ではない、“個人”という敵の厄介さを象徴するような場面である。

最終的にボンドはデジタルのデの字もない僻地にシルヴァを誘い出し、原始的な武器と罠を駆使して勝利を収める。

古典的スパイ映画の秘密兵器さながらの技術を駆使する敵を相手取り、ありあわせの物と自分の肉体を頼りに立ち向かうボンドの姿は「007」というよりは『ランボー』に近い。

ここで特筆すべきは、ボンドが古典的スパイから脱却していること、そしてわれわれ自身がその古典的スパイ、ひいてはシルヴァのありように近づいている点である。

別に悪いことを企んでいるわけでなくとも、われわれはプライベート欲しさに「隠れる」。
国家や集団としては、プライバシーの必要性は認めざるを得ないとしても、動向を把握しておきたいのが人情である。
そこからなお逃れようとモバイル器機のプライバシー機能を強化していく現状で、われわれの立ち位置はシルヴァのそれに近く、ボンドを敵に回して「逃げ隠れ」を目論んでいるといえるのではないだろうか。

古典的なスパイ映画の秘密道具には今ならありふれていたり陳腐化していたりするものもある。
時代の流れとして必然のことであるのだが、進歩してゆく現実に対し、スパイの側が遠ざかり、スパイの敵の方が歩みよってきたというのはなかなか面白い転回のように思える。









posted by nino-sanjo at nice!(1)  コメント(0) 
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